あの時君は若かった
私は今年29になった。
29にもなって、若いころに好きだったものを、なぜだか最近手当たり次第に検索したり掘り返したりしている。
昔していたアニメのキャラクターのコスプレ写真、ライブのたびに撮っていたプリクラ、昔好きだったブランドのHP、10年前好きだったバンドの曲、当時の友人からもらった手紙、昔から書き溜めていたブログ。
そういうものを、手当たり次第に懐かしんでいる。
10年前、私は見た目で判断されたくて、一目でカテゴライズされることを望んでいて、腰まである髪を真っ白な金色に染め抜いて、なぜか前髪だけショッキングピンクにして、これでもかというくらい1時間早く起きてくるくるに巻いていた。頭には羽根のついたドールハット、20枚重ねくらいありそうなボリュームのスカートに、フリルたっぷりのタイがついた中世を思わせるようなブラウスを着て、コルセットを締めてレースアップの厚底ブーツで原宿を闊歩していた。ゴシックロリータ。今でも大好きだけどさ。着ないけど。関東ぎりぎりに住んでいたくせに、大阪だろうと名古屋だろうと、全国駆けずり回ってライブに週2回くらい行っていた。田舎の果てからバンドを追いかけ、いつもiPod classicから流れる爆音のロックンロールを耳に押し込んでいた。
見た目で判断されたい女子がたくさん集まって、控えめに言っても人生で1,2を争うくらい楽しかった。私が育った環境とか家庭はまともなものじゃなかったけれど、その中でもなぜかわりと普通に育った私は、首席で高校に入学して、カネを払わないどころか娘にすらカネをタカってくる父親を当てにしないために、バイトをしながら特待生で高校に通い続けた。
高校ではあまりまともとは思われてなさそうだったけど、幸い勉強にしか興味のない生徒ばかりが集まった3年間持ち上がりのクラスだったから、スクールカーストを気にせず好き勝手にふるまうことができた。バンド好きの生徒ともたくさん知り合うことができて、決して勉強ばかりのモノクロ青春を過ごすこともなく、楽しく生きてこれた。と思う。
思い返すと当時、走り屋(というのが正しいのか。とにかく、改造車に乗ってドリフトしたりする人達。暴走族とはまた違う、車好きのチームみたいな人達)とよくつるんでいた。友人の兄が走り屋だったという縁で集まった、15人くらいの集まり。
よく知らないけど、走り屋はそれが彼女でも友達でも、女性を隣に乗せるのがお決まりらしかった。
私もとりわけ仲良しの人がいて、1度も性的な仲になったことはないけれどいつもみんなで、あるいは2人で一緒にいた。2人で撮ったプリクラもいっぱい残ってる。元気かな。
そんな環境で、性的に危ない目に遭わなかったのは凄かったと思う。危機管理ができていたのかそうでもなかったのか。でも、自分の娘にはさせたくないな。
高卒で就職して、大好きな仕事で役職がついて、店長にもなって楽しかった。
渋谷だ新宿だ横浜だ、と大都会TOKYO付近の店舗をいくつも回りながら転勤して、都内が大嫌いなことに気づいた私はあっさりと大好きだった仕事を辞め、地元に戻った。
仕事でクソみたいな子が入ってきて(後ほどの調査でわかったが)商品を無断で持ち帰ったり、従業員の財布を盗んだり、あることないこと吹き込んで特定のスタッフを孤立させて辞めさせたりしていたのがストレスすぎてパニック障害になってしまったこともあり、すこし骨休めしてみたかったのもある。
(傷病手当をもらい、半年位で復帰して、やっぱりやめた)
そのあと、小中の同級生だった夫と結婚した。
幸せな家庭とは程遠い世界に生きていたから結婚なんて墓場だと思っていたし、母親は毒親だし、父親は借金まみれのクソ野郎だし、私自身一生結婚出来ねえなと思っていたのに、家族仲が良くて兄弟が多くて年に3回は家族旅行に出かけるような男と私は結婚した。クリスマスと誕生日には義母が嫁である私にプレゼントをくれる。主人も毎年欠かさずクリスマスと誕生日とけんかした時と何にもない日にプレゼントをくれる。
自慢じゃないが、私は主人と結婚するまで家族からプレゼントなんぞもらったことはない。友達の誕生日会に呼ばれても、家が貧乏だったからプレゼントを用意できなくて行けたためしがなかった。なんなら家族で外食したこともない。旅行もレジャーも行ったことがない。
主人と結婚して、年2、3回は義家族で旅行に連れて行ってもらう。
主人と結婚して、私は初めて一軒家というものに住んだ。
主人と結婚して、息子2人というめちゃくちゃ可愛い存在を得た。
余談だけど、子ども大嫌いな私からしても、子どもというのは人生が狂うほど可愛い。とにかく可愛い。毎日見ていたいくらい可愛い。寝ていても泣いていても歩いていても可愛い。なんで子ども嫌いだったんだ私、と思うくらい可愛い。自分は殴られ無視され育ったけど、とりあえず可愛い。もちろん癇癪起こして床でバタバタしているときは血管切れそうなくらいイライラするけど。
もう、iPodに詰め込んだ曲を爆音で耳に流し込みながら只管に煙草を吸うことも無いし、朝までよく知らない人と酒を飲むことも、子機を片手に握りしめながら眠りにつくことも、髪を真っ白に脱色することもライブに行くこともジャンクフードだけで生活することも無い。
私は煙草をやめたし、夜は0時前には寝るし、毎日子供のために食事を作るし、ライブ行ってたら子供はだれが見るんだって感じだし、母親は死んだからワンオペだし、髪なんかもう3年くらい染めていない。
でも時々こうして懐かしいものに囲まれると、もう涙が出そうなくらいとがって脆くて中二病的で恥ずかしい私自身を、本当に懐かしく思う。
戻りたくはないけど、でも楽しかった日々。
まあ楽にやんなよ、10年後なんかあんた2人も子供がいて美容室なんか半年に一回行けばいいほうだから。とか言いたい。絶対ごめんだわって言いそうだけど。